【モデルケース】架空物件で学ぶ、買取再販の仕入れ〜再販の通し判断
ここまでの記事で、仕入れ判断・利益設計・データの読み方・指値・リフォーム・販売を、テーマごとに解説してきました。この記事では、それらを1つの架空の物件で、仕入れから再販まで通して追いかけます。
「実際にはどう数字が動くのか」を、ステップごとに見ていきましょう。以下の物件・金額はすべて、学習用の架空のモデルケースです。相場や標準値ではありません。自社のエリア・基準に置き換えて読んでください。
このケースのゴール: 仲介から「これ、いくらでいける?」と打診が来た1物件を、取得適格チェック → 出口価格の見積もり → コスト逆算 → 粗利判定 → 指値 → リフォーム → 再販まで、数字を追って判断します。
物件の設定(架空)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 種別 | 区分マンション |
| 専有面積 | 60㎡ |
| 立地 | 最寄り駅 徒歩7分 |
| 築年 | 築22年(新耐震) |
| 状態 | 現況(水まわり・内装に経年劣化) |
| 売主の事情 | 相続。早めに現金化したい |
| 仲介からの打診価格 | 3,700万円 |
仲介担当者から「買取で検討してもらえないか」と打診が来た——ここからスタートです。
STEP0:その物件、そもそも「買える」か(取得適格チェック)
価格を計算する前に、出口(買い手)が成立する物件かどうかを確認します。
- 再建築・接道:問題なし
- 耐震:築22年=新耐震(1981年6月以降の建築確認)。融資面の懸念は小さい
- 管理状態:修繕積立金の積立・滞納に問題なし、大規模修繕履歴あり
- 心理的瑕疵:なし
→ 取得適格はクリア。価格の検討に進みます。(このチェックの詳細は再建築不可・旧耐震など出口が狭い物件の見極めで解説しています)
もしここで「再建築不可」「旧耐震で融資が付きにくい」「管理不全」などが出ていたら、出口が狭まる前提で価格を引くか、見送る判断になります。価格の前に、ここで弾くのが鉄則です。
STEP1:類似事例から「出口の相場」を掴む
次に、再販でいくらを狙えるか(出口)を見積もります。条件の近い物件を、築年・専有面積・駅距離の3軸で集めます。
- 同エリア・同条件の成約事例(実際に売れた価格)=相場の土台
- 今売り出されている売出し競合(ライバルの価格と在庫)=今の需給
このケースでは、リフォーム済み・同条件の成約㎡単価が概ね 80万円/㎡ 前後と読めたとします(築年・駅距離は、この㎡単価にすでに織り込まれている前提です)。
(成約と売出しの使い分けは成約データと売出しデータの違いと使い分け、エリア相場の掴み方はエリア相場の見方と広域展開で解説)
STEP2:再販価格(出口)を見積もる
リフォーム後の想定再販価格を出します。
60㎡ × 80万円/㎡ = 4,800万円
ここで保守的に見るのがポイント。売出し競合が多い価格帯なら、強気ラインではなく「現実に成約が見込める価格」で逆算します。今回は売出し競合・販売期間を踏まえ、再販想定=4,800万円(保守側)としました。
(出口の値付けは買取再販の再販価格の決め方、競合の見方は買取再販の競合分析で解説)
STEP3:差し引くコストを積む
再販価格から引くコストを見積もります(金額は架空例)。
| コスト | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| リフォーム費用 | 300万円 | 水まわり刷新+内装一新(+予備費込み) |
| 保有コスト | 80万円 | 想定保有6ヶ月の金利・固都税・管理費等 |
| 諸経費 | 150万円 | 取得・売却の仲介手数料、各種税、登記費用等 |
| 合計 | 530万円 |
リフォームは「出口に刺さる範囲」で(リフォーム費用の見積もり方)、保有コストは保有期間で変わる前提で(保有コストの計算)、諸経費は取得+売却でまとめて(諸経費の計算)見積もります。
STEP4:仕入れの「上限」を逆算する
ここまでの数字から、いくらまでなら買えるか(仕入れ上限)を逆算します。自社の目標粗利を「対再販価格15%」と設定したとします(※この基準は会社・物件で変わります。利益率・粗利の出し方参照)。
目標粗利 = 4,800万 × 15% = 720万円
仕入れの上限 = 4,800万 −(530万 + 720万)= 3,550万円
つまり、3,550万円までで買えれば、目標の粗利率15%を確保できる。仲介の打診価格は3,700万円なので、このままでは150万円オーバー。ここから指値交渉に入ります。
STEP5:指値交渉
打診3,700万に対し、上限は3,550万。根拠とセットで指値を出します。
- 「近隣の成約水準と、リフォーム費用・保有コストを踏まえると、この価格でないと再販で成立しない」
- 売主は相続で早く現金化したい事情がある → 価格だけでなく「早く・確実に決済できる」「現況のまま引き取れる」という価値も提示
交渉の結果、3,500万円で合意できたとします。データで上限(引けない一線)を握りつつ、売主の事情に合わせた——という流れです。
(指値の進め方は不動産買取の指値交渉の進め方、選ばれる体制は仕入れルートの作り方で解説)
※実際に通るかは売主の売り急ぎ度と競合次第で、一律の値引き率はありません。データが決めるのは「上限」までです。
STEP6:粗利を確定し、GO判定
仕入れ3,500万で買えた場合の粗利を計算します。
粗利 = 4,800万 −(3,500万 + 530万)= 770万円
粗利率(対再販価格)= 770万 ÷ 4,800万 = 約16.0%
自社のGO基準「15%」を上回ったので、判定はGO。上限ライン(3,550万)より安く買えたぶん、粗利率も基準を少し上回りました。
※ここでの粗利は、法人税等を引く前の事業粗利です。建物分の消費税の扱いや利益への課税は別途で、自社の状況は専門家に確認してください。
この一連の計算(再販想定→コスト→粗利率→GO/STOP)は、配布中の「仕入れ可否判定シート(Excel)」に物件情報を入れるだけで再現できます。
STEP7:リフォーム——想定通りか、上振れか
仕入れ後、リフォームに入ります。ここで現実的なリスクが「解体後の追加工事」です。
- 想定通り300万で収まれば、計画どおりの粗利
- もし解体後に給排水の劣化が見つかり、追加で50万かかれば、粗利は770万→720万に縮む
だから、リフォーム費用には最初から予備費を見込んでおくのが鉄則でした。さらに、工事が長引けば保有期間が延び、保有コストも増えます。費用と工期はセットで効いてきます。
STEP8:再販——早く売って、利益を確定させる
リフォームが終わったら、販売です。買取再販は売り切って初めて利益が確定します。
- 初動の見せ方(写真・情報・価格)を作り込み、売り出し直後の反響を取りにいく
- 想定販売期間(6ヶ月)の前提で保有コストを見積もっているので、長引けば粗利が削られる
- 反応が薄ければ、価格か見せ方かを切り分けて手を打つ
無事に想定価格・想定期間で成約すれば、粗利770万円(粗利率16%)が確定します。
(販売の設計は再販物件の売り方と販売チャネル、回転の管理は在庫回転率とKPI管理で解説)
STEP9:振り返り——基準を更新する
最後に、想定と実績を突き合わせて、自社の基準を補正します。
- 想定㎡単価80万に対し、実際の成約はどうだったか
- 想定保有6ヶ月に対し、実際は何ヶ月で売れたか
- リフォームは300万で収まったか
このズレを次の判断に反映すれば、仕入れ基準は少しずつ賢くなります。これが、属人的な勘をチームで再現できる仕組みに変えていく作業です。
(標準化の進め方は仕入れ判断の標準化と新人育成、属人化のリスクは仕入れ判断が「属人化」すると何が起きるかで解説)
まとめ:通して見ると、判断は「手順」になる
このモデルケースを振り返ると、仕入れ判断は感覚ではなく手順だと分かります。
- STEP0 取得適格チェック(売れる物件か)
- STEP1-2 類似事例から出口(再販価格)を保守的に見積もる
- STEP3-4 コストを引いて、仕入れの上限を逆算する
- STEP5 根拠を持って指値、売主事情に合わせる
- STEP6 粗利率を自社基準と照合してGO/STOP
- STEP7-8 予備費を見込んでリフォーム、早く売り切る
- STEP9 想定と実績を突き合わせ、基準を更新する
数字(架空例):再販4,800万 −(仕入3,500万+リフォーム300万+保有80万+諸経費150万)=粗利770万円・粗利率≒16.0%でGO。
この手順を1枚に落とした「仕入れ可否判定シート(Excel)」を無料配布しています。今回のケースの数字を、そのまま入れて試せます。
各ステップの詳しい考え方は、こちらでどうぞ。
▶ 買取再販の仕入れ価格はこう判断する(仕入れ判断の全体像・ハブ記事)